中小企業のコストをかけない、効果的な人材採用・定着・育成法

フリーライター

吉田典史

第5回「事例分析 その2… なぜ、この会社は幹部を養成することができたのか?」

社員の声を無視すると、会社は動きません

今回は、社長が管理職や幹部を養成することに成功した会社を紹介します。

 

都内中心部にある精密機器メーカーです。

 

社長は、60代前半のアメリカ人。

日本に住み、30年以上が経ちます。

20数年前に創業し、現在、社員は40人ほど。

売上は、5億円前後を毎年推移しています。

 

管理職・役員6人の半数が、大手精密機器メーカーにいるときにリストラで辞めた、

50代の男性社員たちです。

 

社長は、このベテランたちを中心に会社を動かしています。

 

ポイントは、徹底した現場志向。

 

たとえば、ある役員が中途採用試験の面接で「この人は採用したくない」といえば、

社長はその人を不採用にしているのです。

 

エントリーした人の中には、社長の知人からの紹介もいるようです。

それでも、役員や管理職たちが「NO」といえば、採用しません。

 

私が取材を通して観察していると、中小企業の社長は管理職や幹部の意向を無視し、

採用を決めてしまうことがあります。

 

アメリカ人の社長は、私の取材にこう答えていました。

 

「幹部が採用したくないと言っているのに、強引にねじ込んでも、いい結果は出ません。

管理職や役員をはじめ、社員の声を無視すると、会社は動きません」

ふところの深い社長だからこそ、管理職や役員から慕われる

日々の仕事においても、社長は管理職や幹部の考えを可能な限り、受け入れます。

 

たとえば、営業部長と業績の目標などは徹底して話し合い、詰めます。

 

しかし、そこからは深入りしません。

目標を達成するための手段や方法などのすべてを部長にまかせているのです。

 

社長は、その理由をこう説明していました。

 

「彼らは、大手メーカーで30年近くも営業をしてきたのです。

私が中途半端に介入すると、彼らのプライドを傷つけます。

結局、やる気をなくしてしまうのです」

 

管理職や役員は誠実に働くようです。

営業部長は50代後半ですが、20代前半の新卒社員のようにはつらつと動きます。

こんなことを話していました。

 

「社長が何もいわないから、怖くなることがあります。
いざとなったときに、相当に厳しいことをつきつけてくるのかもしれないと思います。

だからこそ、大手メーカーのときよりも、がんばっているつもりです」

 

大手メーカーの頃に比べて年収は半分以下となりましたが、

日々の仕事において納得感があるそうです。

 

社長は、管理職や幹部をヒステリックに叱ることは一切しません。

非管理職たちがいる前で大きな声で称え、プライドを最大限、尊重します。

 

ふところの深い社長だからこそ、管理職や役員から慕われます。

非管理職の定着率も高く、5年以上勤務する人がほとんどです。

 

社員の間で、情報や意識、目標の共有が進み、組織として稼ぐ体制になっています。

甘いも酸いもかみ分けた、中小企業の社長に…

こんな社長にも、失敗がありました。

 

10数年前には、資金繰りがゆきづまり、不渡り寸前になったことがあります。

1度に3人の社員が辞めて、納期に間に合わない状態が続いたこともあるようです。

 

当時をこう振り返ります。

 

「金融機関からの借り入れが膨れ上がっている時期もありました。

ストレスのあまり、倒れるのではないかと思える日々でした」

 

試行錯誤を経て、管理職や役員などを「許す」ことを知ったのだそうです。

前回の記事で紹介した社長とは正反対といえるのではないでしょうか。

 

これが、管理職や役員から敬意を払われる存在になっていく大きな理由となったのです。

 

甘いも酸いもかみ分けた、中小企業の社長になりました。

 

その広く、柔軟な心が、会社のいまの姿になっています。

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