M&Aによる事業承継を考えた会社のオーナー社長が知っておくべきこと

経営コンサルタント 兼

製造業および小売店舗オーナー

中沢光昭

第6回 Win-Winの条件に落とす

お互いの利益になるような条件をつけながら、段階的に譲渡していく。

オーナー社長同士のM&Aであれば、そんな事業承継も実現可能です。

条件の溝は段階的に埋めていく

よほどの競争力がない限り、

小規模事業者の買収においてはなかなか加熱する争奪戦にはなっていきません。

 

買い手と売り手が1対1であれば、

買い手としてはなるべく安い価格で譲受けようとしますし、

売り手はなるべく高く売りたいと考えます。

そうすると、必然的に、希望価格の差を埋めることに時間がかかっていきます。

 

そうした状況を実際に経験したり横で見ていたりすると、

段階的に譲渡を進めることが適している状況が多いのではないかと推測しています。

 

もちろん買い手が合理性を重視して意思決定する会社(投資ファンドなど)であれば、
議決権比率、つまり支配権をしっかり取りたがりますので、
段階的な譲渡を条件にした売却というのはなかなか通用しません。

 

ただ、

オーナー社長同士であれば充分合意できるのではないかと思います。

 

まず、最終的な決定権がどの段階で、どちらにあるかは最初に明確にしておいて、

半分なり3分の1や3分の2なり、株式の一部だけ先に売ります。

そして、期間限定で自分も一緒に頑張りながら、足掛け数年かけて協議して合意する。

その結果を踏まえて残りの株式は同じ相手に引き取ってもらえる。

そういったスキームで段階的に譲渡するわけです。

将来の不確定要素をなくす条件をつける

話をまとめるという視点に立てば、

いっそのこと、売却価格も最初に決めておいて、

将来的に交渉する際には、業績が上がろうが下がろうが左右されないことにしておいても

良いのかもしれません。はらむリスクはお互いさまです。

 

話のまとまらない原因が売却価格(カネ)だけなのであれば、

支配権をとったり、信頼関係を築いたりすることで

後でいかようにも取り返せる機会は巡ってきます。

状況が変わっても、だれも損しない条件をつける

また、株の買い戻しについての(買い手があまり損しない)条件を付けておくのも、

受け入れてもらいやすいのかもしれません。

 

支配権を売り手に残して共に事業に取り組みながら段階的に譲渡していく過程で、

信頼関係が構築できないと双方で感じる状況になることも考えられます。

 

その場合、買い手には買収によるメリットがほとんどないので、裏切られたように捉えます。

それを見据えて、関係をスムーズに解消できるようにするための条件です。

 

業界が狭ければ狭いほど信頼関係が業績に直結してきます。ですから、

事業とともに信頼関係が引き継げなければ買い手にとって幸せな状態になりません。

 

また、売り手にとっても次の買い手を一から探し始めなければならなず、

双方のダメージになってしまいます。

 

ならば、時間をかけて信頼関係ができるのを見届けつつ、

段階的に議決権を移していくということが有効な選択肢かと思います。

根本的な企業の魅力を高めておく

最後にオーソドックスなことではありますが、

「辞退」という選択肢を常に持っておくことは、自分・自社に最大の交渉力を与えます。

ですので、会社の業績だけではなく、個人の健康問題なども含めて、

にっちもさっちもいかない状況になってからでは、良い結果は生まれにくいでしょう。

 

また、自社の特徴を明確にしておいて、業績を安定させておくことが根本的に重要です。

いくら既得権益などを持っていたとしても、

業績が不安定であれば、その権利の価値も落ちてしまいます。

 

売却による事業承継は、

「最大のキーマンがいなくなるので買受ける側もやりにくい」という、

根本的な矛盾を抱えた取引です。

 

「うちの会社は儲かるんですよ! どうぞ高く買ってください!」と言っても、

「ではなぜいま手放すんだ? 何か隠してるのか?」と勘繰られたりもします。

 

対話による信頼関係の構築と、それを証明するスキームの双方揃って、初めて成り立ちます。

ポイントを押さえて、時間をかけて、じっくりと取り組まれることをお勧めします。

(おわり)

[完]

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