2025.06.23
寺尾会計の税務的な毎日
基礎控除額等の税制改正に伴って専従者給与の変更はできる?
令和7年分から所得税の基礎控除等が引き上げられました。
これに伴い『青色事業専従者給与を増額したい』というご相談がありました。
はたして、青色事業専従者給与を増額することはできるのでしょうか。
夫が営む事業を妻が手伝っている場合を例にして考えていきましょう。
【前提】
所得税法において、
「個人と生計を一にする親族等に支払った対価は必要経費としない」と規定されています。
ですから、夫が妻に給与を支払ったとしても、その給与の金額は夫の事業の経費になりません。
この規定には、家族単位で所得を分散させることで、
家族全体でのトータル的な税負担を軽減させることを防ぐ目的があります。
たとえば、夫の所得税率が40%、妻の所得税率が10%の場合を考えてみましょう。
夫が妻に10万円の対価を払うことにより
夫の所得が10万円減り、その分妻の所得が10万円増えたとします。
すると、夫の所得税は4万円減少し、妻の所得税は1万円しか増加しません。
世帯合計で見ると、税負担は3万円減少していることがわかります。
【青色事業 専従者給与という特例】
このように、課税の公平を目的とする前提はあるとはいえ、
他人を雇えば給与(経費)になる対価が、妻に払えば経費にならないというのも不公平です。
そこで、一定の規制の下で、妻への給与が経費として認められる規定が設けられています。
その規定の一つが『青色事業専従者給与』です。
以下、「専従者給与」といいます。
夫が青色申告を事業的規模で行う事業者である場合に
一定の届出書を所轄税務署に届けると、妻へ支払った給与が専従者給与となります。
すると、支払った給与は夫の事業の必要経費として認められ、妻の給与所得として認識されます。
【専従者給与として認められる支給額】
専従者給与として支払う金額は、労務の対価として相当であればいくらでも問題がありません。
逆に、労務の対価として不相当である場合には、経費として認められません。
では、いくらが『労務の対価として相当』といえるのでしょうか。
その判定は、納税者個々の実態に即し、次の状況を総合勘案して行います。
①青色事業専従者の労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度
②給与の状況(他の使用人の給与、その事業と類似するものが支給する給与)
③その事業の種類及び規模並びにその収益の状況
簡単にいえば「他人を雇った際に支払う金額」と言い換えることができるでしょう。
実務的には、妻の所得税額が生じない金額を専従者給与として支給する事業者も少なくありません。
つまり、給与所得控除の最低保証額(55万円)+基礎控除額(48万円)=年103万円です。
【基礎控除等の引上げに伴う給与金額の増額】
令和7年度税制改正により、妻の所得税額が生じない金額が年160万円となります。
(給与所得控除の最低額65万円+基礎控除額58万円)
そこで冒頭のように、
今年分から専従者給与の増額ができるかどうかが気になるというご相談に至ります。
端的に申し上げると、
基礎控除額の変更のみを理由とする支給額の変更は認められにくいものと考えられます。
それは、給与はあくまでも「労務の対価」であるため、
夫の事業の実態に変更がない限り、対価の変更についての合理性がないためです。
とはいえ、今回の基礎控除等の引上げは、物価上昇等を背景とする見直しです。
財務省のデータによると、最後に基礎控除の引上げが⾏われた平成7年から令和5年にかけて
物価指数が10%程度上昇し、特に平成25年頃からの上昇率が大きいことが見て取れます。
また、愛知県における最低賃金を見ても
平成25年780円、令和6年1,077円と3割以上も引上げられています。
令和6年において月に20日、日に8時間の就労をしている場合の年間最低賃金は206万円となります。
ですから、今回の税制改正を契機として
10年以上同額で専従者給与を支払ってきた方がその支給額を見直すことは、
決して不合理とは言えないのではないでしょうか。
専従者給与を増額する場合には、
支給額改定の妥当性についての説明ができるよう客観的な根拠を明確にし
金額変更が決まり次第、変更届出書を所轄税務署へ提出することを失念しないように留意しましょう。
参考HP:
財務省 説明資料
物価の上昇等を踏まえた基礎控除等の額の適時の引上げの具体的な方策の検討について
https://www.mof.go.jp/tax_policy/councils/zeicho/250529_2-2.pdf