2025.10.03
家督相続 〜円満な相続のために〜
相続した遺産を売却した。所得税を申告する人は誰?
相続が発生して遺産を分割した後、なんらかの事情で遺産を売却することがあります。
売却により譲渡所得が生じた場合には、所得税の申告が必要です。
所得税の申告は、翌年度の住民税や社会保険料等の金額にも影響を及ぼします。
そのため
「税金等の負担がこんなに増えるのであれば、こんな内容の分割には合意しなかったのに!」
社会保険料等の決定通知書が届いてからこのように思われるケースも実際に見られるところです。
今回は、そうしたトラブルを避けるために
現物分割・代償分割・換価分割により相続した財産を売却した場合に
所得税の申告をするべき人は誰なのかという点についてお伝えしていきます。
遺産分割の3つの方法はそれぞれ次のとおりです。
①現物分割
亡くなった方が残した遺産そのものを相続人で分ける方法です。
例:土地Aは長男が、土地Bは長女が取得する。
②代償分割
ある相続人が遺産を取得し、その代わりに自分の財産を他の相続人へ渡す方法です。
例:土地Aを長男が取得し、その代償として長男が自身の預金1,000万円を長女へ渡す。
③換価分割
遺産を売却し、その売却代金を相続人で分ける方法です。
例:土地Aを長男と長女が共有で取得し、その後に売却した代金を二人で半分ずつ分ける。
これらの分割方法のうち、基本となるのは現物分割ですが
遺産や相続人の事情によっては、代償分割や換価分割が選ばれることもあります。
相続した財産を売却した場合に譲渡所得を申告するのは「財産を取得した者」です。
この原則は、遺産分割の方法に関わらず同様です。
つまり、長男が土地を取得し、その後売却した場合における所得税の申告義務者は長男です。
そして、長男と長女が共有で土地を取得して売却した場合の所得税の申告義務者は長男と長女です。
①現物分割により長男が土地を取得して売却した場合、売却にともなう申告義務者は長男のみです。
とてもシンプルで特に難しいことはありません。
②代償分割により長男が土地を取得して売却した場合、売却にともなう申告義務者は長男のみです。
別途、代償財産を他の相続人へ渡しているかどうかは、所得税の申告には関係ありません。
③換価分割により長男と長女が土地を取得して売却した場合、売却にともなう申告義務者は長男と長女です。
共有する土地を売却したこととなるためです。
換価分割の場合に課税関係を複雑にさせる原因は、
実務上の便宜のために、長男のみを土地の取得者として登記することがあるためです。
この場合、名目上の所有者と実質の所有者が異なるため、課税関係がわかりにくくなります。
登記上は長男の単独名義であっても、実際には長男と長女の共有財産を売却したことになります。
ですから、売却による譲渡所得は両者に帰属し、それぞれが所得税の申告を行う必要があります。
また、この場合、長男が一人で売却手続きを行い、売却代金を長男から長女へ渡すこととなるため、
売却や金銭の流れが代償分割と同様になる点も、課税関係に対する理解をややこしくする理由の一つです。
このように、登記上の名義が長男であっても、
遺産分割が現物分割/代償分割により行われたのか、それとも換価分割なのかによって
所得税の申告義務者は異なります。
確定申告会場等で換価分割であることに気がつかれず、長男のみで申告するように指導されることもあり得ます。そうならないように、遺産分割の方法を説明できるように準備しておくことが必要です。
特に代償分割や換価分割を行う際には、遺産分割の段階で所得税の申告義務者についても意識し
どの遺産分割方法を選択しているかを分割協議書に明記することがトラブルの防止につながります。