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コラム

2025.12.13

確定申告よもやま話

相続税評価額を取得費として使えますか?【所得税】

資産を譲渡して売却益が生じた場合、その利益部分について所得税が課されます。

譲渡所得は次の算式で計算されます。
譲渡所得 = 譲渡価額 −(取得費+譲渡費用)

そして、この譲渡所得の概ね15%の所得税、概ね5%の住民税を納税することとなります。


さて、相続した不動産を売却するお客様からしばしばいただく質問の中に
相続税評価額を取得費として使えますか」というものがあります。

その質問の背景には、次のようなお考えがあるように見受けます。
「私は、相続の時に相続税評価額で取得したのだから、相続税評価額が私にとっての取得費なのでは?」

しかし結論として、譲渡所得の取得費に相続税評価額を使うことはできません

それは、相続税が「資産」に課税される税金であり、
所得税が「利益」に課税される税金という違いがあるためです。

相続税は、相続が発生した時に、亡くなった方の遺産額の多寡に応じて課税されます。
ですから、相続税評価額は、あくまで「相続税を計算するために設けられた、概念的な価額」です。
「財産が今いくらの価値があるか」について、評価のルールに従って計算された金額です。
つまり、誤解を恐れずに表現すれば、相続税評価額は「机上の金額」であるといえます。

一方、所得税は、買った時から売った時までの利益(所得)に対して課税されます。
ですから、所得税の取得費は、原則として「その資産を取得した際に支払った、実際の金額」です。
言い換えれば、「財産をいくらで手に入れたか」という原価(元値)です。
具体的には、購入代金や建築費、購入手数料、改良費、相続登記費用などの合計額です。

このように制度趣旨や定義が異なるため
相続税評価額を取得費として計算することはできないわけです。


相続税評価額が取得費にならない理由について
別の角度から、具体的な設例も見ながら考えてみましょう。

上記でご説明したように
所得税は、買った時から売った時までの利益(所得)に対して課税されます。
ですから、譲渡所得の金額は次のように算出します。

【例1】土地を600万円で売却。土地は自分で10年前に100万円で購入。 
      譲渡所得 = 600万円 - 100万円 = 500万円

【例2】土地を600万円で売却。土地は亡き父が10年前に100万円で購入。相続税評価額は400万円。
      譲渡所得 = 600万円 - 100万円 = 500万円

いずれの場合も、被相続人が実際に支払った100万円が取得費となります。
上記は現在の日本の税制に基づいた正しい計算です。

もし、例2の際に、相続税評価額(400万円)を取得費として認めると、
譲渡所得は200万円(600万円 - 400万円)となります。

本来課税されるべき300万円(400万円 - 100万円)については
所得税が課税されないこととなってしまいます。

これでは、「取得してから売却するまでに相続があったかどうかで納税額が変わる」という
不公平を生むことになります

この視点からも、相続税評価額を取得費として計算することはできないという結果が得られます。

「では父の相続時に300万円の利益を父に課税すればよいのでは」という考えもありえますが、
限定承認など特殊ケースを除き、現行制度はこの方式を採用していません。


税は、公平・中立・簡素という3つの原則の基に制度がつくられていると言われます。
とはいえ、実際には制度趣旨や他の税目との関係が絡み合い、わかりづらい部分もあります。

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